介護今昔

橋本みさおは、自由な犬と暮らす独居ALS患者です。24時間人工呼吸器を使用してい
ます。
全介助で、訪問看護、訪問診療、介護人派遣制度を寄木細工のように合わせて、命と暮ら
しをつないでいます。
全介助とは読んで字の如く、生活するために全ての場面で他者の手助けが必要だという事
です。
息するために人工呼吸器、喀痰のために吸引器。
栄養摂取は食事ではありません。経管栄養注入です。
伝える事が一番の労働で、400字を1週間かけて入力しています。
NPO法人 ALS/MNDサポートセンターさくら会、在宅介護支援さくら会の理事長
に就いていまして、犬の養育費の為にけっこう労働する障害者です。
現在は練馬区という東京都西北部の(23区中の最後にできた)区の、西武練馬駅にほど
近いアパートの4階に住んでいます。
 同居犬はシーズーミニチュアダックスの雑種です。
本名はさくらと言うのですが、トリマーさんとトレーナーさん以外は「ポンちゃん」と呼
んでくれています。自分の名前を「かわいい」だと思い込んでいる、知る人ぞ知る要介護
犬であります。本当は、介助犬にしようと目論んだのですが、飛び切りの過保護に育って
しまいました。
私は発声ができません。
普段は、ナースコールで夜勤の学生を起こしているのですが、過去2回壊れたことがあり
夜勤者が寝入ってしまったことがあります。そのとき、この犬の朝ごはんの時間に、犬の
習性で学生が起こされて助けられたことがあります。まあ、立派な救命救助犬です。
部屋の広さは多分55?ほどで、事務所を兼ねていますが「犬小屋」です。とりあえずは
、倉庫にベッドがあるような暮らしです。
ポンはゲージも無くて、1日中寝場所を変えてゴロゴロしています。

介護
夜勤を同じ私鉄沿線の学生が10人前後で、15年間24時間×365日、ローテーショ
ンを組んでくれています。10人前後と曖昧な表現をしましたが、15年前に人工呼吸器
をつけて退院した時は、介護専門職3人(日勤)と学生有償ボランティア3人(夜勤)だ
けの体制でした。現在は、日勤と家事援助を含め20人前後の有資格者が常に私を監視し
ています。
重度脳性まひ者等介護人派遣制度の頃は全員無資格でした。

訪問看護
練馬区医師会訪問看護ステーションの訪問看護師が、日祭祝日以外は必ず毎日一度は訪問
して下さっています。
この訪問看護が口煩くチェックするので、15年間入院せずにすんでいます。
ALSは難病ですから、患者も病人である事を忘れて欲しくありません。

医師
専門医は、帝京大学病院神経内科の畑中医師です。介護者間では、「ゆっきー」で通じま
すので、信頼度はご想像下さい。
私の部屋の壁には「緊急時にはゆっきーに丸投げ」という張り紙があります。
この部屋で歓迎される数少ない男子の一人です。
2000年のデンマークでのALS/MND国際会議にも、ボランティアで同行してくれ
ました。

*なぜ24時間他人介護が実現したか。
もともと介護には不向きな家族ではありました。
自発呼吸のある時は、弱い人間が耐える事で体裁を整えてきましたが、人工呼吸器を離せ
なくなると、忍耐なんてしてたら死んでしまうんですよ。私が死ぬと言う事は誰かが殺す
訳で、これまた悩ましい事なのです。
それやこれやで、呼吸器をつけて退院する時に病院のMSWが大学の学生課に求人案内を
出し、4人の応募者があり病棟看護師さんが介護看護指導をして下さいました。
 主婦意識の欠如も成功の理由の1つです。
キッチンの主の考え方が大きく影響します。ちなみに私は、どなたが冷蔵庫を覗いても財
布の中を覗いても無関心な人です。主婦の風上にもおけないヤツですから、どんなにたく
さんの方が出入りされてもストレスはありません。家族に気を使っていませんね。犬なの
で。
あっ、犬に冷たくすると我が家では冷遇されます。これは、重要なポイントです。

橋本操の自由な月曜日
02:00 就寝
08:00 ポン起床 ポン朝ごはん 
私も夢の中で朝食カロリーメイト+白湯を一気飲み
ここで投薬(医療行為?)
09:50 訪問看護?と日勤ヘルパーが前後して登場
10:00 夜勤者帰宅
10:30 訪問看護?
12:00 ポンおやつ。介護者昼食。私トマトジュースで水分補給。
13:30 訪問看護?
14:30 私がカロリーメイト+白湯を流すので、ポンもおやつ。
15:30 訪問看護?研究事業
17:00 日勤⇒夜勤交代。私ミキサー食。
      投薬。
18:00 ポンと介護者夕食。
21:00 ポンと介護者おやつ。
22:00 私、カロリーメイト+白湯
23:00 ポン眠くてグズるので布団を敷く。
25:00 そろそろ寝ないと夜勤者に迷惑なので眠剤。医療行為です。
26:00 体交して、おやすみなさい。
介護としての体交は1日2回です。訪問看護の清拭時に作業の手順として、5分ほど左を
向きますが右側に生活野がありますので、1日のほとんどを顔だけ右向きで暮らしていま
す。ポンはベッドの上も自由に動き回っていますが、胸部には近付かないように指導され
ています。
 在宅人工呼吸器使用者も犬と暮らせますし、24時間介護者が入れ替わる私のような場
合では、犬が緩衝材になっているようです。
犬は習性を知れば、信頼できる相棒になりますが自由も制限される事が多くなります。

 措置の時代から体制は、ほとんど変わっていません。
ベースにあったのは、東京都の重度脳性まひ者等介護人派遣制度と練馬区の脳性まひ者等
介護人派遣制度と心身障害者の介護人派遣制度(措置制度)から、現在は自立支援法+介
護保険になりました。
介護保険の内容が、使いづらいことは否めません。例えば「国民の老後を守る」とされる
介護保険が、私の福祉制度では優先されます。
介護保険訪問介護がひどく使いづらいものであることは、既にご存知だとは思います。

現在、身体介護を7時間で使おうとすると、関係者のチェックが入ります。7時間の身体
介護は、想定されていないのです。
しかし禁止もされていません。他に救済制度もありません。そんな時は、窓口で交渉して
います。
介護事業所は、制度上細切れで介護人を派遣することが可能なのです。
 大手の業者は、2時間程度の介護人派遣が利益が出るので、ブツブツ切って派遣します
。それでは、利用者の生活が細切れになってしまいます。
身体介護の終了時間から2時間の空白がないと、家事援助(生活支援)も入れません。
ここで、認知症や人工呼吸器使用者は利用が制限されます。仕方がないので空白を作って
いますが、こんなに非合理的な方法は好みません。しかしながら、社会的弱者は、長いも
の(介護保険制度)に巻かれなければ生きていけないのが現実です。

ALSと介護保障については、ALS/MNDサポートセンターさくら会までお尋ね下さ
い。 

http://d.hatena.ne.jp/sakura_kai/